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Guide to Basilico

PART1

along Waltva River

ワルタヴァ河畔にて

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傘

カンパリはどう答えていいか困ったが、当のイスマエルはあまり意に介した素振りも見せず、鉱石茶をいかにも美味そうに飲んでいる。ドノバンも会話に加わらず、棚に並ぶ本の背をじっと眺めている。しばし沈黙が訪れ、一同は戸外の雨音が強くなってきたのに気がついた。
「本格的に降ってきたようだね」
イスマエルの、その言葉で入り口の方へ視線を移したカンパリに扉の脇に立てかけられたイスマエルの傘が目に入った。いつもの彼の傘である。
少々の雨では傘をささない菜人が多いが、イスマエルは必ず傘をさす。何か理由があるとカンパリは常々思っているのだが、尋ねたことはない。そんなことにふと思いが至り、余計に次の話のきっかけがつかめなくなった。けっして気まずいわけではないが、なんとなく中途半端な間が訪れる。
ふたたび雨音だけが聞こえる。
その時、またイスマエルがぽつりといった。
「美味い」
・・・美味い、といって、イスマエルは宙を見上げたまま、何か考えているようである。その様子に、カンパリは、多分彼はピゴットの店を思い浮かべているのだと思った。アルとマリの店のホットスープについて思いをはせているのであろうと。

椅子